FUNGUAGEとは、FUN(楽しい)とLANGUAGE(言語)を掛け合わせた造語で、人やモノなどに、アソビの力を取り入れることで、人々の行動を誘発してFUNを伝播させ、“楽しいつながり”を生み出すことを目指したデザインコンセプトです。現在バンダイナムコ研究所が中心となりさまざまなFUNGUAGEのプロトタイプを制作しています。
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特集

研究所が目指す新しいアソビの形 FUNGUAGE に迫る!
・・・ここまで読んで「分かるような、分からないような、分からない!」と思っている人も多いと思います(笑)そこで今回は、FUNGUAGEの提唱者であるバンダイナムコ研究所の荒明浩一(あらあけ・こういち)さんに、FUNGUAGEとはどういう概念なのか、FUNGUAGEを活用した作品はどういうものなのか、なぜFUNGUAGEが重要なのか、じっくり話を伺います。
"楽しませる"知見を活用し、行動変容を促す
荒明さん、今日はよろしくお願いします。まず初めに、普段研究所でどんな仕事をしているのか教えてください。
「外部の人や団体と一緒に新しいエンターテイメント体験をつくる仕事をしています。例えば、TRINUSと出会いのきっかけでもある『バンダイナムコアクセラレーター』の運営に携わっています。
他にも去年のCEATECでは、サンライズとの協業で360度の実写映像にガンダムのキャラクターのアニメーションを合わせて、実際の景色の中に3Dキャラクターがいるように見えるコンテンツを制作しました。実はFUNGUAGEも他社と共創したプロジェクトの中で生まれた概念なんですよ」
それでは早速、FUNGUAGEとはどういう概念で、誕生にはどういう経緯があったのか教えてください。
「きっかけは2017年にオーストリアのアルスエレクトロニカ、博報堂と一緒に『これからパックマンはどういう風に変わっていくべきなのか、パックマンとは何者なのか?』というパックマンの本質的価値を問うワークショップでした。その時に生まれてきた考え方のひとつがFUNGUAGEだったんです」
アルスエレクトロニカといえば、世界的に知られるメディアアートの研究機関ですよね。具体的に、どのようにしてFUNGUAGEという概念に辿り着いたのでしょうか。
「バンダイナムコが培ってきた『人を楽しませる』知見を活用して、人と人、人ともののコミュニケーションを促進する仕掛け、デザインコンセプトをつくれないか、という思いが根底にあって。そこから、FUNとコミュニケーション手段としてのLANGUAGEを掛け合わせた概念が生まれました。
2018年には、パックマンが自分のアバターとなって感情を代弁してくれ、周りの人とコミュニケーションが取れるという作品をつくりました。自分の気持ちがパックマンによって可視化されたら、ちょっとハッピーになれそうじゃないですか?」
そうですね。自分の気持ちをもっと表現したい!と自然に思えるような気がします。
「私たち自身もFUNGUAGEにはどんな可能性があるのか、どんな応用ができるのか、日々考えながらFUNGUAGEそのものをアップデートしています。インセンティブ付与などの報酬がなくても、楽しいからやってみる、その行動によってつながりが生まれる、結果として全体が良い方向に変わっていく、みたいなフローが生まれたらいいなあって」
「ポイントがもらえるからやる」のではなくて「ポイントの有無関係なく、楽しいからやる」とユーザーに思わせる仕掛け、その考え方そのものがFUNGUAGEなのですね。
「はい。人間欲張るので、報酬をもらうと次はもっと欲しくなるんです(笑)もらえばもらうほど期待値が上がっていくけれど、無限に報酬を渡すことはできない。だから限界が来てしまうし、そもそも報酬はゲームや体験の本質ではないと思うんです。操作するのが楽しいとか、遊ぶだけで楽しいっていうのが本質だと思っているので、そのコアな部分をFUNGUAGEを通して伝えていきたいです」
広がるFUNGUAGEの可能性 社会課題の解決も
前述のパックマンの他には、どんなプロトタイプがありますか?
「例えば、ハンモックにセンサーを付けて、座っている人の感情を揺れ具合で判定し、目の前にある画面に感情の種類に応じた丸い光の玉を映し出す作品をつくりました。揺れが激しければ怒っていると判定して、怒りを表す赤い光の玉が画面に映し出される、という感じで。
ハンモックは2つ用意されているので、相手の感情の玉も一緒に画面に映し出されるんです。例えば怒っていると、相手の玉をガンガン弾いてしまうとか。画面上で相手とコミュニケーションが取れるんですよね。
そうしてどんどん玉が溜まっていって画面いっぱいになると、玉は全部消えてしまいます。でも実はその消えた玉が、画面の後ろから同じ色のビーズになって出てくるんです。デジタルの表現が、フィジカルな物体として排出される仕組みになっています」
2020年2月には、東京ミッドタウンのエスカレーターにFUNGUAGEを実験的にインストールしたそうですね。どういう目的だったのでしょうか。
「世の中の具体的な課題を解決するために、FUNGUAGEを活用する試みでした。当時東京ミッドタウン3階にある美術館が休業しており、3階の他の店舗への客足が減っているという問題がありました。また、最近は駅などでもアナウンスされるようになってきましたが、エスカレーターを歩くのは危険です。利用者が自然に立ち止まる仕組みが必要でした。
そこで、上りのエスカレーターを楽譜に見立て、全部で8個あるポイントを止まった状態で超えると音が奏でられるようにしました。利用者が下から上まで動かずに乗り切ると1曲が完成するという作品をつくりました」
子どもの頃、音が鳴る階段で遊んだ記憶がありますが、これは止まっていないと音楽が鳴らないし、曲が完成しないのですね。
「そうです。しかも、乗っている人が増えるほど音が重なっていき、音楽がリッチになる仕組みになっています。結果、エスカレーターの利用者数と手すり利用者数を導入前後で比べたところ、いずれも導入後に増加しており、このFUNGUAGEの効果が認められました」
バンダイナムコ研究所と共に進化を続けるFUNGUAGE
お話を聞いていると、FUNGUAGEの概念はどこまでも広がっていきそうな気がします。
「実はチーム内でもこれはFUNGUAGEなのか、そうではないのかっていう意見が分かれる時があって。理解の幅が広いコンセプトだと思います。でも言い換えれば、その分概念自体がどんどん進化していく余地があるということ。Fun drivenであり、人やものをつなぐツールであるという軸は変わりませんが、理解の幅があるからこそ可能性を広げていけると思います」
荒明さんご自身は、FUNGUAGEというコンセプトの検討やプロトタイプの制作を通して、どんな影響を受けましたか。
「視野が広がってきたなと思います。あ、これもFUNGUAGEになる、これもいけるな、というような気付きが増えました。エンタメやゲーム業界の人の日常生活って『ここをこうすればもっとおもしろくなるのに』っていう小さな閃きで溢れていると思うんです。でもそれを実際に試すことはなかなかできない。そういう言語化、具現化されていなかった経験値、暗黙知をいかす可能性がFUNGUAGEにはあると考えています。ゲームはゲームでクオリティを高めていってほしいと思う一方で、みんなこっちくればいいのにって少し思いますね(笑)」
まさに進化の過程にあるFUNGUAGE。バンダイナムコ研究所は、今後もFun drivenなコミュケーションを研究していきます。荒明さん、ありがとうございました!
(C) BANDAI NAMCO Research Inc.